宇宙のまがり角(2) |
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今回のまがり角の風景はスペースシャトルの話しにします.シャトルは私の友達で乗った人もいますし,技術的なことも含めてよくご存じの方も大勢おられると思いますので,間違ったことを書いていたらご指摘ください.
とにもかくにもシャトルは,それまでのロケットは一回だけ使って全部捨てる,というミサイルと同じシステムであったのを,可能な限り捨てる部分を少なくして,運航を航空機的な効率的なものに近づけることを実行して,宇宙輸送コストの大幅低減と高頻度輸送を目指したものでした.現実にできあがった機体やその運航システムは極めて複雑な構成になってしまいましたが,飛ぶ前の計画では,一回飛んだら次の飛行までの間のターンアラウンドは,160時間!すなわち約1週間を想定していたのです.
オービタは繰り返し整備して何度も使い,固体の補助ロケットは海から拾ってリファービッシュで推薬再充填,水素酸素の外部タンクは毎回新品・・と,これをぐるぐる回転させるのが一週間,というのはとんでも無い程の大忙しで,今にして考えればこの一週間のターンアラウンドというゴールは相当無理なものであったと言えるのでしょうが,まあこれは後から言う,の類であって,これが4機の体制でフルに回転していたら,相当な高頻度輸送が実現していたことになります.でも実際にはそうなりませんでした.
何でそうならなかったのかは,技術的な側面では,機体のリファービッシュ,特にオービタの耐熱タイルとSSMEと言うメインエンジンの毎回飛ぶごとの補修や検査や,はずしたり着けたりやら交換やら,次に飛んでもOKと言う認定などの仕事が,想定したよりもとても大きな仕事量になってしまったこと,と言われています.それではそれらの技術の問題がなければどんどん客や荷物がやって来て,先程の様に週に1回を4機で行うわけですから,一週間に4機シャトルが飛ぶ様なぐるぐる回転する状態が作られていたかというと,どうでしょうか?現実の世界では,まあそんなに客はいないわなあ,ことほど左様に新しい輸送需要というものを刺激したり生み出したりすることは難しい,ということでしょうか?
シャトルの飛行記録を調べると機体ごとの飛行間隔が分かりますから,やってみると1986年のチャレンジャー事故の前は100日弱の程度の間隔.事故後は100〜150日,2003年のコロンビア墜落の後は200日以上のターンアラウンド,で最終的には3機体制で年に3−4回と言う状態だったことが分かります.結果としてシャトル一回のフライトの経費はいくらなのだというと,5〜600億と言われていました.シャトルの運航に必要な人員はおおよそ1万人で,これだけの人間を雇っておく経費は年に約二千億で,年に4回の飛行だと単純に4で割って500億となって,飛行頻度とコストは反比例して,ははぁ,運航コストとはそんなモノか,と分かったような気になります.
この勘定で行くと,仮に一週間に一回4機体制で年に200回などという状態が実現出来ていたとしたら(実際は年50回程度を考えていたようです.結果としてのライフは30年ですからまあ総飛行回数は何千回とか!現実には30年で135回),これを一万人で転がせたかどうか分かりませんが,これだけの回数飛べば1フライト10億以下,輸送コスト一桁以上のダウン,と言うことにはなります.そう言う世界が出来ていたのでしょうか.ともあれ,シャトルはもう退役してしまいました.シャトルの次はまだ出来ていませんし,作る話しも動いていません.結局シャトルは何を残したのか・・・と言うと,再使用が有意であるためには飛行頻度と機体あたりの総飛行回数がある値を超えることが本質である,と言うことがシャトルの運航から学んだことなのだと私は思います.
我らが土井隆雄くんは,シャトルはとても立派だと言います.何が立派かというと,やっぱり飛行機のようなシステムや軌道上でいろんな運用を標榜してできたものは,ソユーズのカプセルなどとは比べものにならないのだと言うことでしょうか.でも現実にはシャトルはその運用を終え,ソユーズはまだ飛んでいます.他にもオライオンやドラゴンとか言った昔ながらのカプセルの開発は未だにやってます.我々はこれからどう言う世界を目指すのでしょうか?立派なモノは要らない,昔にUターン,と言うことでは世の中は進歩しないのですが,それでは困ります.宇宙のまがり角の中でシャトルの構想と現実,そして退役はどういう風景として位置づけられるのか,と言うようなことはまた別の時に・・と言うところで今日の話しはひとまず終わりにします.
先月から連載を始めたら,何カ所かからご意見を頂きました.なにかみなさんの見えるところでご紹介したり議論したりするような仕掛けが出来ないモノかと,庶務理事の羽生君に相談したら,ロケット協会のHPにJRS会長のコラムというページを設けて,この記事だけ抜粋して掲載するとのことです.記事に対する皆様からのご意見を合わせて掲載させていただく予定です.メールアドレスinfo@jrocket.org宛にご意見,ご感想および掲載についてのご要望などお寄せいただければ幸いです.
(次回に続く)
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第1回 宇宙のまがり角(1)
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