■日本ロケット協会稲谷会長の連載(ロケットニュースより)

 
日本ロケット協会 会長 稲谷 芳文 


宇宙のまがり角(8)
 

宇宙の仕事,というとロケットを打ち上げたり,衛星や探査機を作ったり運用したりといういわゆる定型の仕事をイメージしますが,これらの仕事のやり方やヒトの関わり方,あるいは我々のような研究所でやっている仕事のスタイル,と言うのもずいぶん変わってきています.今との比較をしてどちらがよいとか悪いとか言うのではありませんが,もう少し糸川時代がどうだったか,と考えてみます.

去年が100周年だったので糸川生誕は1912年,ペンシルを始めたときは糸川先生は42歳,東大をやめたときは54歳,で,この間日本のロケット開発にとって大変密度の濃い12年間,とは前回の話しで,内之浦開所は1962年でそのころ50歳,そのころのロケット実験の記録をひもとくと,大体実験主任と言ってそのロケットの号機を任されている責任者は,斉藤,玉木,野村,森,平尾,秋葉(全部にいちいち先生とつけると煩雑なので省略.偉い先生をないがしろにする訳ではありません)・・と言ったところのメンバが順番に責任者を務めていたようで,この辺りの先生方が中心でやっていたことが伺われます.ちなみに後で活躍する長友や松尾などという年代の,我々がより直接に接した先生達はこの頃は大学院の学生だったのですね.糸川先生が東大を去る前後や後の「おおすみ」の成功につなげる過程の打ち上げ実験で責任者を務めたのは上記のいわゆる第一世代の先生達で、その頃年齢は多くは30代,年長の人で40前半でしょう.糸川先生自身はいわゆる実験主任は道川時代のベビーロケットから後はやっていなかったようで,実務や現場は先ほどのメンバに任していた,というところでしょうか.

さて,翻って今の宇宙の仕事で,どれくらいのことをどれくらいの歳で任されているかというと,どうなっているでしょうか,と調べてみました.今の時点(2013年2月)で,いわゆる宇宙科学以外のJAXAで開発中の衛星やロケットのプロマネと言われてる人たちの歳を調べたら平均は55歳でした.プロジェクトも大小・期間の長短ありますが,最年長は60で最年少は49歳.開発中ですからまだ飛んでいないので飛ぶときはもっと歳を取っているのでしょう.プロジェクトが始まったときはもうちょっと若かったのでしょうが40前半や30代というのはないですね.宇宙科学の世界の衛星や探査機の正式化されているプロジェクトでは平均年齢は50歳でした.もちろん黎明期の当時と比べてプロジェクトの規模や使っているお金はずいぶん大きくはなっているのでしょう.

何回か前に糸川先生が大いに参考にしたというミニットマンというミサイルの話しをしましたが,ここでも,ミニットマンの構想立案をしたエドホールはミニットマン初号機が飛んだときは47歳,これをやらせた側のシュリーバー中将は51歳.ミニットマンの開発は節目節目で人が入れ替わって適材が担ったと言うことは前に述べましたが,初号期打ち上げ時のプロジェクトディレクタのサム・フィリップスは39歳,ということで,かなり若い人たちが大きな仕事を任されてやっていたようです.

30代後半や40前半の人たちに任せてやっている状況とはどんな感じだったでしょうか?時代が大きく動くときや,ものごとの黎明期には,若い人しか実行者がいなくて,年寄りはただ見ていたのでしょうか?あるいはそれを任せる年寄りとはどういうマインドセットだったでしょうか?裏返して言うと,実行するのが高齢化している世界とは,ものごとの成熟期あるいは衰退期なのでしょうか,とまで言うと言い過ぎでしょうか?

できあがった世界,あるいは成熟した世界とは,その実行の方法が確立して,やってる連中も年寄りになっている世界と言うことでしょうか?裏返して言うと若い連中にものごとを任せない世界と言ってもよいでしょうか?成熟と共にものごとが大型化したり複雑化したりして,さらには景気が悪くてプロジェクトが次々と転がらなくて,実行の頻度がどんどん減ってきて,前のプロジェクトが成就しないうちに実行者が年をとってしまう?

はたまた今の連中はかつてと比べて,年齢の割に幼いか,大きな仕事を任せられないか?・・・ではそれはなぜか?いやそんなことはないのだろう,でも経験させる機会がなくなってきているからか?組織の年齢構成が時代と共に変わってピークが毎年ひとつずつ高齢化しているからか?そもそも組織や年齢構成にはフラットな状態とか定常状態というのはあり得ないのであるか?逆にフラットな年齢構成の組織というのは活気のある組織と言えないのであるか?ましてや新規採用が少なくて年齢が上がるほど人数が多いのが今の所帯だわなあ,チームビルディングとは意図して若い人中心でやるべきだなあ,言い出しっぺが最後までやっていればそれは年を取るのは当たり前だなあ,金は出すが口は出さない立派な年寄りと,元気な実行若者というのが理想だわな・・・などといろいろ考えさせられます.

私には出来ませんが、宇宙のことやそれ以外の世界の出来事も含め誰かこの辺のことをもうちょっと体系的に調べて,ものごとの成熟と組織の年齢構成の関係について,何か普遍的なことを導く,と言うのはなんだか面白いテーマになるのではないかと思います.宇宙のまがり角をどう曲がる、と言う話とはこのあたりで接するのでしょうか.

今月以上



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第1回 宇宙のまがり角(1)
第2回 宇宙のまがり角(2)
第3回 宇宙のまがり角(3)
第4回 宇宙のまがり角(4)
第5回 宇宙のまがり角(5)
第6回 宇宙のまがり角(6)
第7回 宇宙のまがり角(7)
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