■日本ロケット協会稲谷会長の連載(ロケットニュースより)

 
日本ロケット協会 会長 稲谷 芳文 


宇宙のまがり角(10)
 

UNISEC 10周年記念イベント(2013年2月11日,本郷武田ホール)というのがあって参加しました.UNISECとはご存じの通り,大学宇宙工学コンソーシアム(University Space Engineering Consortium)で、学生による手作り超小型衛星やロケットなど宇宙工学の分野での実践的教育活動の支援を目的として,2002年に「大学衛星コンソーシアム」と「ハイブリッドロケットグループ」を統合して設立,現在は50以上の大学や工専のグループが参加し,500人以上の学生会員が活動しているそうです.

今回の集まりにはロケット協会会長として呼ばれたようなのですが,私がこれらの活動をするグループと接したのは,実はそのUNISECが出来る前の2000年のころ,東大と東工大のグループがなんだか手作り超小型衛星とかの通信実験をやりたいというので,何百kmなら気球でやったらどうかという話になり,宇宙研の成層圏大気球を使った地上との通信模擬実験の世話をしたというか,うまくはめられて世話をさせられたのがきっかけでした.このあたりは今のUNISECの中心の東大東工大の二人の先生はヒトをだまして使うのが上手です.また,川島レイとかいうもっと悪い人がいて,「キューブサット物語」だったかの本に,悪いオヤジが若者をいじめた,と言う風に書かれています.ウソを書いてはいかん,と抗議したのですが無視されています.

ともあれ,その頃の極めて牧歌的な状態から,今のUNISECの活動は,とても立派になって,「ほどよし」何とやら,と言うプロモーションでは結構大きなお金を使って,いわゆる実用的な小型衛星や,研究活動としての工学的な実証の領域まで活動を広げていますし,あるいはいわゆる宇宙の現場で物事を担保するための過剰な品質や安全要求を「ほどほど」で行こうとするある種の宇宙への参入障壁を下げるためのアンチな活動としての意味も含めて,実行していることは,素晴らしいことと思います.

また,いわゆる草創期も含めいわゆるUNISEC世代の若者,と言うのが世の中に登場してきて,だいたい一番上の世代が30代後半にさしかかってきていて,我々の宇宙の業界や現場でも,実践能力の極めて高い,有能なキューブサット世代というかUNISEC経験者集団,と言うのが独特の影響力をもつカタマリとして存在感を増しつつあることも事実です.

一方で思いますのは,これらのことを先導的に出来る集団というのは,やはり日本中の大学で,という訳にはいかなくて,非常に限られた人たちだけになってきているようにも思います.元々のUNISECの主旨は多くの大学に裾野を広げて,この種の宇宙を題材にした実践を教育という観点でやる,と言うことだったと思うのです.先ほどの10周年の集まりで思ったことのひとつですが,来賓に役所やらメーカやらのえらい人を呼んできてご理解とご支援をお願いする,の図は,なにやら大学的反権力,アンチメインストリームとは違う方向のようで,ある種の物事が黎明期の清々しく応援されながら実行される,という状態から変質してきているようにも思います.

ロケットも同様で,カムイハイブリッドも大学的に清々しく応援されるという状態から,より本格的な世界になっていくのであれば,安全やらものごとの管理やら事故の防止やら,と言うことが先に出る世界にどんどんなって,次の展開が大学の研究室で研究室的に行う,と言う世界から乖離していくようにも思います.規模が大きくなるためには必定とは言え,このあたりが宇宙における大学的教育実践活動と成熟した状態との境目であるような気もします.お金がなければ物事は転がらないが,世の中お金を持つことと清々しくやることの両立はことほど左様に難しいものと知るべきです.

ふと振り返ると,宇宙研の前身の大学における糸川先生達の活動におけるペンシルのような小規模実験から,道川,内之浦へ,の発展の,段々物事が本格的になっていく過程での初期の段階は,実はいまのUNISECの活動拡大と結局は同じことなのではないか,と言う気がしてくることです.時代も周辺状況も全く違いますし,そうするとUNISECの行き着く先が第二の宇宙研かというと,それは違うのだろう.だが,逆に一方で思うことは,我々宇宙研はなにやら知らない間に大きなお金を使う所帯になってしまって,本来の宇宙の仕事が持つべきアンチなメンタリティや,批判精神はどこかに行ってしまったのではないだろうか,と反省しなくてよいのか,などと言うことです.

そもそも世の中が大学に期待することは何かと考えると,結局は,大きな意味の問題解決の能力なのであって,今の宇宙の世界で直面する本質的な問題は何で,だれがこれを突破するのか,などと考えると,大学が世の中や権力に迎合的にやるのではなく,大学とはそもそも世の中を変えるために,現状に対しては批判的になるべきです.この10年間のUNISECがそうであったように,彼らの活動が清々しく受け入れられ,次の10年も持続的に応援される状態にするためには,活動規模の拡大や多くの資金獲得を標榜するのみでよいのか,さらに発展するには何が大事なのかよく考えることが必要なのでしょう.私としては,権威や体制に迎合する優等生的なUNISECでなく,ゲームチェンジや既存体制をひっくり返すさらにアンチなUNISECを期待するものです.

今月以上



バックナンバー
第1回 宇宙のまがり角(1)
第2回 宇宙のまがり角(2)
第3回 宇宙のまがり角(3)
第4回 宇宙のまがり角(4)
第5回 宇宙のまがり角(5)
第6回 宇宙のまがり角(6)
第7回 宇宙のまがり角(7)
第8回 宇宙のまがり角(8)
第9回 宇宙のまがり角(9)
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